大阪高等裁判所 昭和58年(ネ)1550号 判決 1984年10月30日
控訴人 浦上理工株式会社
右代表者代表取締役 浦上英明
右訴訟代理人弁護士 西本剛
同 笹原滋功
被控訴人 ピップフジモト株式会社 (旧商号・藤本株式会社)
右代表者代表取締役 藤本久雄
右訴訟代理人弁護士 小野昌延
同 吉元徹也
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
一 当事者の求めた裁判
1 控訴の趣旨
(一) 原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。
(二) 被控訴人の請求を棄却する。
(三) 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
2 控訴の趣旨に対する答弁
主文と同旨。
二 当事者の主張
次のとおり控訴人の当審における主張を付加するほかは、原判決事実摘示と同じであるから、これを引用する。
1 本件意匠は、(一) 円形粘着シートの上面中央に偏平円柱形磁気体を付設していること、(二) 磁気体の上面に略半球状の小突起が正三角形の各角部位置に突設していること、の二要件から構成されている。しかし、右(一)の要件は従来からの貼付式磁気治療器の基本形態をなすもので、特段の創作性や美的価値は見られず、公知意匠に属するものであり、右(二)の要件のうち、偏平円柱形磁気体の上面に略半球状小突起を突設したものも、貼付式磁気治療器においては公知意匠に属するものであるから、本件意匠の特徴・創作性は専ら右小突起の数とその配列にあるものといわなければならない。そうすると本件意匠の要部は「偏平円柱形磁気体の上面に略半球体の小突起を正三角形の各角部位置に配列・突設」した点にあるものということができるのであるが、イ号物品は偏平円柱形磁気体の上面に五個の半球状小突起を中心点と縁部の九〇度等角位置に突設しているのであるから、右小突起の配列形態において本件意匠の要部と顕著な差異があり、右意匠とは類似しない。
2 本件意匠には類似意匠が登録されており、この類似意匠によると、本件意匠における小突起の配列は正三角形の各角部位置の突設に限定するものでなく、イ号物品の小突起の配列も右類似意匠の例により本件意匠に類似すると見られないではない。しかしながら、類似意匠は本意匠の要部を具備し、全体を観察したとき本意匠と共通した印象を与えるものについてのみその登録が認められるところ、本件類似意匠(1)、(2)、(4)、(5)、(7)については本件意匠と共通した印象がなく、類似意匠登録の要件を具備せず無効のものであるから、右各類似意匠をもって本件意匠の要部認定の参考資料とし、これによってイ号物品の小突起の配列が本件意匠に類似するものと断ずることはできない。特に、本件意匠における小突起の配列は医療用機器の分野では公知に属することであり、貼付式磁気治療器の分野では公知とまではいえないにしても、その創作性は極めて低いものであるから、類似意匠の登録によって本件意匠の範囲を拡大することは不当である。
三 証拠関係《省略》
理由
一 当裁判所も、被控訴人の本訴請求は原判決認容の限度で正当として認容し、その余は失当として棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり控訴人の当審における主張に対する判断を付加するほかは、原判決理由説示のとおりであるからこれを引用する。控訴人の当審における立証も右判断を左右しない。
1 控訴人は当審において、偏平円柱形磁気体の上面に略半球状小突起を突設させることは、貼付式磁気治療器においては公知意匠に属し、創作性がないことを前提に、本件意匠の特徴・創作性は専ら右小突起の数とその配列にある旨主張する。しかし、右前提事実の認められないことは、先に引用した原判決理由中で説示のとおりであり、当審における立証をもってしても右認定を左右しないから、右主張は採用できない。
2 次に、控訴人は当審において、本件類似意匠(1)、(2)、(4)、(5)、(7)が過誤登録されたものであることを前提に、右類似意匠をもって本件意匠の要部を定めることはできない旨主張する。しかしながら、登録意匠権侵害の有無を対象とする民事訴訟において、侵害者とされた者が別途右登録無効の行政訴訟を提起できることは格別、これなくして右民事訴訟で右登録の無効を前提とする主張はこれをなしえないものというべきであるから、右主張はそれ自体失当というべきである。控訴人は自己の主張を理由あらしめるために、その障害となる前記類似意匠の登録を過誤登録というものであり、右過誤登録を認めるに足りる証拠もないのであるから、右主張は到底採用できない。
二 よって、右と同旨の原判決は相当で、本件控訴は理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 石井玄 裁判官 高田政彦 辻忠雄)
<以下省略>